イオンみたいに舐められたい

大学から承認を受けた範囲内の多様な学生サークルがチラシを配布する新入生歓迎会が催されていそうだったので、キャンパスへ出かける準備をしていると、辞めたサークルの先輩が新歓の様子をインスタグラムにアップしていたので、「僕も行くつもりだったので、会いましょう!」とリアクションし、自転車をずんずん漕いだ。過度な負担を抱えることなく、相手の現状を知り、(気乗りすれば)行動に移すことのできるストーリーズ機能はやはり偉大だ。そんなことを考えながら自転車に乗っていたのは、僕がこのようなシームレスなコミュニケーションの実践に不慣れだったせいだろう。

先輩と会うのは1年以上ぶり2度目だったのでやや緊張したが、彼の朗らかな対応のおかげでリラックスして会話をすることができた。先に挙げたように先輩とはインスタグラムで繋がっている(SNSで”繋がる”と表現するときいつも恥ずかしくなるので別の表現を考えようとしてやめる)ので、どんな雰囲気かどうか(あくまでもインスタグラム上での振る舞いであるものの)をなんとなく分かっていたことは助けになった。ブースを練り歩きながら、サークルに所属している学生のみなさんからチラシをたくさん受け取った。彼らはおそらく自分と同じ3年生で、コロナ禍であっても怯むことなく懸命にサークル活動に参加しようとした勇猛さが、その瞳から、その振る舞いから、ひしひしと感じた。当然ながら彼らは僕のことを新入生として扱う。「いいサークル見つかった?」「今度練習会あるからおいでよ!」などなど。それが僕にとって心地よいものに感じられて、それは新入生の疑似体験ができたことも理由になりそうだが、同い年から粗雑に扱われたり舐めて接されたりする経験が久しぶりで懐かしくなったのだと思う。4年生である先輩も着ていたジャケットを指さされ、「それカーハートだよね? ヒップホップ好きなの?」と声をかけられて、嬉しそうにニタニタしていた。

大学近くの喫茶店でオムライスをご馳走してもらい、就職活動や脱会したサークルのことについていくつか会話を交わした。先輩の計らいで気持ちよく話すことができたのだと思う。あとで連絡をひとつ入れておこう。いや、いまDMします。しました。

解散後京都駅の南側にある映画館で、ツイッターでタイトルを目にしていた『春原さんのうた』を観た。東直子の短歌を原作とした作品で、つまり一首を原作としている、分かりにくい映画だった。序盤から物語が小気味よく展開しないことを予期させ、主人公・沙知と彼女と関わる人々(それがどのような関係であるのかは明示していない・視聴者に任されている)の生活を淡々と切り取るものだった。各シーンをショートムービーとして扱えそうなほど。劇中で丁寧に扱われていた、風(とそれが吹き込む窓・部屋)やリコーダー、カメラで撮る・撮られるの関係などの印象的なモチーフもひどく強調させようとしていなかった。僕の映画の見方がなってないともいえそう。あるときは退屈だと言える部分もあって、正直にいうと少しウトウトした。とはいえあの眠気に対しては一切罪悪感がなくて、あの映画を観ながら昼寝ができたら素晴らしいだろうなとまで考えた。今度『春原さんのうた』でナップする会を開きます。無頓着のようで体幹がしっかりしている沙知のキャラクター、めちゃよかったな。

オモコロチャンネルで特集していたため無印良品レトルトカレーが気になり、帰りに無印に寄った。たとえ京都であってもショッピングモールは露骨な面構えをしていて洒落っ気がなくて落ち着く。僕もイオンみたいに人を選ばずに仲良くしようとする(できるかできないかは二の次で)ような気さくな若者になりたい。