どの服も高い日

信じられないことに夏休みが終わろうとしている。頼むよ。いや、頼むぜ。この9月25日が、7週間弱つづいた夏期休暇の最終日だということを受け入れなければならない。通過儀礼として、洗いたてのジーンズを穿いて街へ出ることにした。昨晩乾燥機にかけたこともあって、久しぶりに穿くプチスタは窮屈で、ちょうど今日で購入から32か月が経過していた。

午前中は読みかけだったエッセイ集や詩集を読んで、その感想をブログにまとめていた。夏休みが始まる頃、この休暇で読んだ本をひとつのエントリーにまとめて最終日に公開しようと目論んで、本を読んではチビチビ下書きを更新する日々を過ごしていた。やっと投稿することができて、肩の荷が下りた気がする。気に入った本は、それぞれひとつの記事に感想をまとめてもいいかもしれない。

昼から河原町へ向かった。昼食を食べて、秋服を買って、映画を観るためだ。これこそ夏休み最終日にふさわしい時間の使い方。一本締めをする音がしてくる。

DPZ のからしそばの記事を読んでから*1、からしそばが食べたくなってしゃーなくなっていたので「中国料理 龍鳳」でからしそばと餃子を食べた。思っていたよりも強い刺激はなく、ほんわりとからしが香ってきて、やさしい味がした。別のお店のからしそばも食べてみたい! そういえば昨日も近所の中華料理屋で焼きそばと水餃子を食べていたのだった。美味しかったのでまったく問題なし。食いたいものは食いたいときに食った方がうまい!

いまの時期に羽織れるようなシャツを求めて、河原町の古着屋をウロウロしていたのだけれど、欲しい服がなかった。なかったというか、どれも高くて買えなった。「boro used clothing」で気になった、ノーブランドの紫のストライプシャツ(4,000円)も、〈nautica〉の前面ネイビーと背面ベージュのボディに、右腕ボルドーで左腕グリーンのおもしろい切り返しのジャケット(7,000円)も、「フラミンゴ京都店」で見つけた伊達メガネ(4,000円)も、「LOFTMAN 1981」に陳列していた〈AURALEE〉のディールグリーンのパーカー(30,000円)も、「原宿シカゴ 京都店」で試着した〈nautica〉のピンクとブルーのチェックシャツ(2,400円)も、イエローのシャツ(2,400円)も、全部高かった。手に取る衣類すべてを高く感じるような日だったということです。そういう日もある。服を買う機運が低まっていた。また今度買いに出かけようと思う(し、最悪買わなくても間に合っている)。

アップリンク京都で観たのは、さかなクンの自叙伝を原作とする映画『さかなのこ』。これが、本当に良かった。視線の先には魚しかない「ミー坊」というキャラクターとのんがぴったりハマっていて、その真摯でエネルギッシュな態度が周囲の人たちにも伝播していく様子がとても愛おしかったし、こちらも彼らから元気をもらった。ミー坊が高校のヤンキーたちと絡むシーンでは堪えきれないほど笑ったし、丁寧な描写こそないものの複雑な家庭をバックグラウンドにもつキャラクターの事情を後景化するほど魚のことしか考えていないミー坊がとても魅力的に感じられた。柳楽優弥演じるヒヨの交際相手と食事をとる場面とか、岡山天音演じる籾山の寿司を食べるシーンとか、よかったですよね。全部よかったな。今のところ、2022年でいちばん良かった映画は『ドライブ・マイ・カー』と『さかなのこ』です。

帰宅して、牛丼とじゃがいもとキャベツのみそ汁を作って食べた。Netflix で配信されていた『雨を告げる漂流団地』も観た。小学6年生に背負わせるノスタルジーにしては重すぎだろと思って観ていたけれど、そのくらい記憶の鮮度がないと成立しないのかもなと思った。補正されておらず、取り出しやすい場所にある記憶だからこそ活きるのかも。あと、58分50秒あたりで、宙ぶらりんになった大志に令依奈たちが腕を伸ばすシーンがあるんですけど、彼女が一度彼の袖に手をかけて改めて手首を掴む描写があって、こんなことアニメでやるんだとめっちゃ感動しました。かなり見どころです。


これで夏休みはおしまいで、それに僕はなにかを見出そうとしていて、でも実際にはなんの区切りもなくて、すべてはシームレスに続いている。とはいえ日記のおもしろいのは、日付というスケールでその継ぎ目のない生活を区切られたものとして捉えようとするところにあって、そうすることで生活の一部を客観的に記述できる。年単位だと粒度が粗すぎるし、時間単位で書くほど余裕はない。僕は、それぞれの(記述された、あるいはされなかった)生活のすべてがなによりもおもしろいと思う。