鳥羽和久『君は君の人生の主役になれ』

鳥羽和久『君は君の人生の主役になれ』筑摩書房

間違いなくわたしはわたしの人生の主役になるべきなので買いました。

十代、とりわけ中高生を想定読者としているので、語り口こそやわらかいものの、手を緩めることなく生きることについて書かれている。特に読みごたえがあったのは「第4章 お金で回る世界」。お金ってモノを買うための手段のはずなのにいつのまにかそれを得ることが目的になってて不思議ですよね、そもそもお金って非物質的な存在ですよね、と書き出し、学校教育の一環として「職業的レリバンス」が実施されているのは日本の経済が行き詰っているからですよ、とか、お金と資本主義への解像度を高めることが必要ですよ、とか述べられている。

ですから問題は、資本主義をどうするか? とか、お金があれば幸せになれるのか? とかではなくて、まずは自分が気持ちいいかどうかです。より気持ちよくなることを突き詰めたほうがいいのです。この突き詰め方が足りないせいで、みずから進んで資本主義の生贄になってしまう人が多いことが問題なのです。


著者のふたりの教え子のやりとりから資本主義について考える「生きのびるための資本論」は、webちくまで連載されていた『十代を生き延びる――安心な僕らのレジスタンス』の「第15回 みんなお金がほしい世の中で」を加筆・修正したもの。ブックマークしていたので見に行ったら、すでにページがなくなっていた。

大学院で経済学を学び資本主義へ批判的な立場をとる直さんと、大学時代の知人とフィリピンで英会話学校を立ち上げた一郎くんとのやりとりが描かれている。中立的な視点で彼らをあたたかくまなざす著者は、「二人は真逆のようで、それぞれに社会の趨勢に易々と流されない内発的な動機を持っている。私にはそのことがとても頼もしく思えるのです」と締める。

浪費せずに慎ましく生活するという生き方って、もちろん否定はしないけど、それだけでは何も生み出さないというか、結果的に資本の温存に加担してる感じがするんだよね。結局のところ消費者然としているというか。それよりは、一郎くんみたいに世の中に打って出る、そして自分でつくった場を生かしてお金を回してみるというほうが面白いなと思っちゃう。


別の意図として、あつかましいのだけれど、いま高校2年生の妹に贈るといいかもと思い本書を手に取った。しかし、ざっと読んでみて彼女には難易度が高いかもなと感じた。たぶん僕が高校生のときにはこの本を読み切れなかったと思う。気が向いたら送りつけてもいいかも。もうじき彼女の誕生日なのでプレゼントと称してあげよう。