いくぜ

3月9日 木曜日

11時ごろ自転車にのって、学部事務室へ書類を提出しに行った。7日に連絡があって、10日までに出さなければならない用紙。年末から事務室に顔を出す機会がぐんと増えたので、そこそこ顔を覚えられていると思う。僕はけっこう覚えた。顔と名前が一致している。

昼すぎから日が暮れるまで友だちと時間を過ごした。散歩をしながら話したり、食事をしながら話したりした。数日間京都を滞在するらしい。僕も数日間東京に滞在する機会をつくりたい。

精養軒で半額だったラーメンを食べて、僕の普段の散歩コースを案内した。自分の散歩コースを紹介することってなかなかおもしろい体験。いつもの道を誰かと歩くことで、その道すじに新たな意味が与えられる。道路標識のステッカーがはがれかけているのを見つけた友だちが、すっとスマートフォンを取り出してその様子を撮影していた。慣れた手つき。その現場付近にはがれたステッカーの破片が落ちていて、それを見つけて拾ったときがいちばん楽しそうだった。編集するとしたらあれはハイライトされる。

金閣寺とその周りを泳いでいる鴨を眺めて、北野天満宮の梅を見つめて散歩を閉じた。休憩がてらさらさ西陣で飲み物を飲みながらよく話した。僕が一方的に話すターンが長くて、そのとき友だちは議事録みたいなものをとっていた。対話じゃなくて、形式はインタビューみたいで、中身は激励会だった。もちろん対話もした。いずれにせよ話したことのメモって見返したとき楽しいからあると嬉しい。僕よりも彼女(のメモ)のほうが何を話したか覚えていそう。僕ってなに話していましたか? おれは言葉選びをもっと慎重にしたほうがいい。あとこまめに記録する習慣をつけたい。生活の中で、取りこぼしているところが多いような気がしてきた。友だちとけらけらする時間が楽しくて、いくぞという感じになってきたので、いくぞということを伝えた。これまでの1年と、ここで話したことで、いくぞという感じがより腹に落ちてきたような気がする。やるぞということでもあるし、いくしかないということでもある。気が付いたら日が暮れていて、バスに運ばれるまで見送った。

3月10日 金曜日

昨日よく歩いたので、腰やふくらはぎが筋肉痛になっていた。12km弱歩いていたみたい。日頃運動していないのが響いている気がする。僕は軽装だったけれど、荷物を持ったまま歩いていた友だちは大丈夫だろうか。少なくともおれよりは健脚そうな感じがする。

10時から19時までアルバイトをした。春休みの間はいつも以上に働いている。これから生活するためのお金を準備していきたい。

週末から帰省する予定なので、つまり冷蔵庫の中を空にする必要がある。前もって手続きをしておくことで、うまい具合に空っぽの冷蔵庫に辿り着くことができる。夕飯のみそ汁にはなんでもいれた。大根、人参、玉ねぎ、キャベツ、長ねぎ、絹ごし豆腐。いけるだけいけ。木綿豆腐のほうが好きなんだけど、最近20円くらい価格差が出てきて、抗えず絹ごしにしている。そのくらいはなんとかいけるだろ。

3月11日 土曜日

帰省するのってなにかに強制されてするものではないから出発のタイミングをかなり見誤る。朝早く出ればサッと着くのに下宿先から出るのを先延ばしにしてしまう。京都から岐阜までって鈍行で2時間なんですよ。けっこう近い。下調べしないで駅まで来たから、快速急行ではなく普通列車でのんびり帰った。京都駅ビルで恋人に贈るためのマカロンを買った。最近彼女はマカロンを食べてそれが意外とおいしかったらしい。好きな食べもの増やそう! 本を読んだり気持ちよく居眠りしたりできたので遅い電車の方がよかったかもしれない。ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』の序盤と、神田匠『ヨソモノ紀行』を読んだ。ストーナーは大学入学直前に読んだ作品で、もう一度改めて読むことにした。インターネットで知り合った最も古い友だちのひとりが言及していた作品。ストーナーを読み返すことで、あらためて自分が生きていくことについて考えるきっかけになると思った。そのつもりで読みにいくようにする。

送迎の都合で尾張一宮で降りて、家族と合流して帰省完了。前学期に書いて学部の懸賞論文として提出した論文が佳作みたいなのに選ばれたと伝えたら少し喜んでもらえた。読書感想文で受賞したときの気分だ。このあと半年ぶりに自動車に乗ることになるんだけど、車を操作できるほうが喜ばれる気がする。買ったばかりのドーナツを振る舞ってもらった。

恋人がアルバイトしているところを冷やかしに行くために、自動車で彼女のアルバイト先まで向かった。たぶん夏以来運転していなかったのだけれど、それなりに操縦できる。もちろん運転技術は損なわれているけれど、自分が思っているよりもその速さって遅いのかも。気をつけてハンドルを握る。暇そうにしていた彼女に声をかけて半時間くらいしゃべって帰った。まさかおれが車に乗って来るとは思ってなかったようで、びっくり&嬉しそうにしていて、顔を見せに行ったかいがあった。明日のデートを取り付けた。

3月12日 日曜日

6時前に起きて、近所を走った。母校の中学校まで行って、なんなら校庭を一周した。運転と同じくランニングも半年ぶり。実家に帰ると走りたくなるのは、そういう環境だから。信号がない、あるいはほとんど気にしなくてもいい状況なので、交通を気にすることなくランニングに集中することができる。これは下宿先ではできない。4.76kmを25:02で走った。1キロを5分15秒で走るペース。せっかくやるなら5分は切りたい。

昼すぎから恋人とデートをした。彼女に用事があって、各務原イオンをぐるぐる歩いた。恋人の住んでいるところまで、ショッピングモールまで僕が運転したんですけど、これってすごいこと。フードコートで牛すじカレーを食べて、マックフルーリーを食べた。うまいね。週末に行くところがショッピングモールくらいしかないともいえるけれど、少なくともイオンはあるという話でもある。恋人の着ていた緑のストライプのシャツかわいかった。春だ。

未来屋書店でみつけた稲田俊輔『ミニマル料理』を買おうか悩んでいたところ、「今買ったらそのレシピで料理するたびに、今日のこと思い出すよ」って恋人に言われたので買った。わざわざいうの無粋すぎておもしろい。手に取るきっかけを与えてくれてありがとうという気持ちが勝る。

人ごみに疲れたので、ドラッグストアでジュースとか飲んで解散することになり、近所のドラッグストアでジュースを飲んだり、グミを食べたりして時間を過ごした。彼女の撮る僕の写真っていつもかっこよくなくてかなり辛かったんだけど、身長のちがいで下から見上げるかたちで撮られているから写りがよくないのだと気づけた。この数年間、彼女以外から写真を撮られることってなかったから、その自画像を自分の表情として捉えて、ぼちぼち落ち込んでいたので、けっこう安心した気がする。最近読んだモナ・アワド『ファットガールをめぐる13の物語』でも、自身のボディー・イメージの抗えなさに苦心する主人公が描かれていて、自分の容姿のイメージをどう受け入れていくかって最近のテーマかもしれない気がしてきた。それでいうと僕は自分の脚が好きで、ストレッチするときとか丁寧にマッサージする。

ドラッグストアの駐車場から道路へ出るときに、自動車を縁石にぶつけた。かなり動揺して恋人にも心配させてしまったので申し訳なかった。ハンドルを切りすぎてなんかもうどうしようもできなかった。とりあえず無事に帰宅できてよかった。幽体コミュニケーションズのOllieを口ずさむ余裕すらあった。それはなくてもいいかも。音と衝撃の割に、傷は思っていたほど深くはなかった。

3月13日 月曜日

ごうごうと雨の降る音で目が覚めた。窓を閉めて、まだ暗かったしランニングできそうにもないので、ふたたび目を閉じた。6時すぎに目が覚めて立ち上がったら脚と腰と腕が筋肉痛でランニングできそうにもなさが増した。

はてなブックマークを使いこなしたい、潤沢なデータベースに仕上げたい、同世代のなかでユーザーのMVPを獲りたいという気持ちがあって、午前中はブラウジングとブックマークに時間を使っていた。春休みって感じだ。せっかく帰省しているのに家族がみんな出かけているからこんなことになっている。あと寒かったし。昼にハヤシライスをがつがつ食べて、うとうと眠った。

3時ごろに近所のバスケットコートでバスケットボールをしにいった。このあいだ会った中学生に会えたらいいなという下心を携えていたが残念ながら会えず、母校のジャージを着た中学生の女の子と男の子がブランコでゆらゆらしているのを目視しただけだった。目視すんなし。ほかに誰もいなかったので(ずっと誰もいない)、自分のシューティングやハンドリングの様子をビデオ撮影した。明らかに動きが鈍くなっていた! ちょっとショックだったけど、現状を把握できたのでよかったともいえる。だれかいないとパスができない、だれかいないとドリブルで抜けない、という問題を(常に)抱えている。

木曜日に会った友だちと連絡をして、激励会の効果がてきめんであったこと(いいすぎ)を把握した。僕が、後輩ムーブ・年下ムーブが得意そうであると指摘を受けた。たしかに年上の人とつるんでいるほうが好きで、小学生くらいのころからその傾向にあったような気がする。自分に年上のきょうだいがいないことが関係していそう。憧れがあるのかもしれない。可愛がられにいっている。妹や後輩にあまり懐かれていないという側面も存在する。

スイミングスクールでの練習を終えた妹を送迎し、華麗な駐車に成功してガッツポーズで帰宅したとき、アルバイト先の元同僚の先輩からInstagramのDMがあった。花柄の半袖開襟シャツの商品ページのスクリーンショットに「何も言わずにこれを着てください」と添えられていた。ストロングスタイルすぎる。似合いそうってことですか? って尋ねたら、鴨川デルタでこのシャツに短パン穿いて笑顔でピースしてくれ、ってより詳しい要望が届いてかなりウケた。こういう可愛がられかたもありってことですか。『ストーナー』を読めるところまで(いけるところまで)読んで(いって)、寝る(いく)ことにする。