キンパという信頼のかたち

昼休みに入る直前、アルバイト先の同僚とキンパを食べたいという話題で盛り上がっていた。僕もキンパ食べたいと言いながらも、キンパを食べるには自転車を漕がないといけなかったので、冷蔵庫にあるもので適当に昼食を済ませようと思っていた。その通りに話すと、同僚のひとりから「狭い世界で生きるな。外へ出ろ」と力説された。たしかにそうだと思って、近所の韓国料理店まで行くことにした。

うまいうまいと思いながらキンパをぱくぱく食べていると、店主から「おいしい?」と話しかけられた。店内に客は僕ひとりだったし、なにより『徹子の部屋』でゲストが習いたてのバイオリンを披露する時間が思いのほか長くて耐えるのがしんどかったのもあると思う。初心者ないし初学者が披露するのはもちろん受け入れられるのだけれど、熟練者が披露するにしても長尺すぎたのがよくなかった。こういう「言い出せない雰囲気」って伝わりますよね。

キンパもそうだしこのスープもおいしいですと答えると、店主はリモコンでテレビの音量を小さくしながらうれしそうにテールスープについて語りはじめた。かつて定食にはみそ汁をつけていたのだが、あるときサービスとしてテールスープを提供したところ常連から絶賛されたらしい。以来、お客さんに喜んでもらうためにテールスープを出すようになったのだとか。自家製キムチよりも仕込むのに時間がかかるらしいが、食べてもらう人に喜んでもらうことを思えば大したことないとのこと。かっこいい。

店主は「信頼」という言葉を入念に使っていた。すべてはお客さんとの信頼関係であるという。キンパもキムチもテールスープも信頼のかたちのひとつ。信頼やねと思いながらキンパをパクパク食べた。たとえばどのような信念をもって働いているかというような人生の話について、初対面の人にスッとできるのはかなりかっこいいとも感じた。

友と共にのキンバップ定食